『グラ…』
「え…?」
不意にグラビティが少し顔を上げる。
「…グラ…?」
グラビティの微かな動きに気付いたエレクトロが眉を潜めた。
様子がおかしい…きょろきょろと辺りを見回し、目をしばたく。
「え、だれ…?お、俺のこと、よん、呼んでる…」
「呼んでる…?何も聞こえなかったけど…」

『グラ…ここだよ…ここ…』
グラビティは突然着ていたコートを開いた。
コートの内ポケットから一匹の鼠が顔を出している。
なんの変哲もない鼠だ。

「き、君…」
『さあ、グラ!逃げるよ!!エレクトロはグラが逃げてからじゃないと安心して逃げられないんだから!』
「わ、わ、わ、で、でも」
『でもじゃないの!このままじゃグラもエレクトロも死んじゃうよ!!』
「や、やだ…」

なんの変哲もない鼠…が、グラビティと話をしている…?
エレクトロにはただの鼠にしか見える。
しかし、グラビティはコートに宿る鼠に向かって話し掛けているようにしか見えない。
「え、え、エレクトロ、お、俺さきにいく」
茫然と二人…というのが正しいのだろうか…を見ていたエレクトロは急に話を振られ我に返った。
「え!?あ、う、うん?」
「あと、あとで、会えるよね?そしたら、そのときに紹介するからね」
紹介…とは鼠の事を言っているのだろうか…良く解らない…
状況は全く把握できていないが、そんなことよりもまずはグラビティが先に逃げてくれる決心をしてくれた気持ちが変わらぬうちに送り出す事が優先だろう。
扉は、もう限界だ。
そんな状況下からもエレクトロは精一杯の笑顔を作り、グラビティの手を握った。
「うん、解った。さあ、行って」
「う、うん…またあとで、エレクトロ」
グラは何度も頷き、エレクトロの手を一度強く握り締めてから離す。
それからコートの中の鼠を大事そうに抱えた。

   




   
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