マスクを外せないジャックは辺りを見回した。
年代は良く解らない。
ただ、戦争をしている土地ではない事だけが解る。
あの、静けさの中にも感じる殺気だった空気ではない。
「なぁなぁなぁ…」
静かに、と言っているにも関わらず喋り続けるアーミーの口を片手で押さえた。
「……しッ」
不意に神経を張り巡らせ、辺りの様子を窺う。

何かの、気配を感じた。
アーミーを誘導し、先程まで居た建物の陰に身を潜める。
「…なんだよ」
「何か、いる」
不満そうなアーミーに見向きもせず神経を研ぎ澄ませ、闇でない闇の向こうを睨む。

にゃあ

静寂を細く切り込む音に二人は振り返った。





黒い猫が一匹、二人の背後に佇んでいた。
但し、月の灯りも届かぬ陰に居る為、僅かな光で反射する瞳だけがその存在を示している。
「なんだよ、ジャック…脅かすなよ…」
少なからず、ジャックに合わせて神経を張り詰めていたアーミーは胸を撫で下ろすと安堵の溜め息を吐いた。


「猫…」
違う…猫なんかの気配じゃない。
俺が感じたのは…

「人の気配を感じた?」
闇に溶けた黒猫が、その姿を変える。
「…ゾアントロピー…!?」
ジャックとアーミーは目を瞠った。
確かに猫であったその影は確実に人の姿へと変化したのだ。
ゾアントロピーとは獣化能力の事で、自らの肉体を野生のものへ変化させ身体能力を上昇させる事が出来る特殊能力の一つである。
但し、全く同じものなのかは解らない。
ジャックとアーミーの知っている者の中にも獣化能力を持った子供がいる為、物珍しい事は何一つないのだが能力者が唐突に現れた事による緊張感は生まれた。
「その、『ぞあん』なんとかって何?」
すっかり肉体を変化させた黒猫は闇から少しずつ二人へ近付いてくる。
現れたのはどう見ても14、5程の少年で、口元に笑みを張り付かせて此方を見ていた。




   




   
>>next
















































































*